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2005年8月18日 (木)

馬頭琴

マラガ盆地から北へ行くと、そこは透き通る青と緑の空間。初夏を告げるさわやかな風がみずみずしい草原を駆けていった。その風はいくつもの丘を越え、湖のほとりにある谷にたどり着いた。空高くある真綿のような雲。それを鏡に照らしたように、草原には羊が群れていた。羊の群れの中に4つほど白いテントが張っある。

ゲルと呼ばれるこの建物のひとつには20人ほどの少年少女が集まっていた。皆、様々に色がつけられた羊毛のマントを羽織り、その顔はモンゴル系も白人系もいるかと思えば、そのどちらともつかないような全くの中間、長い年月をかけて混血したろう顔もしばしば見える。

そして、その黒山の中心には雪山がひとつ。真っ白なヒゲを蓄えた老人が見慣れない楽器を片手に語っていた。

 

それはそれは大きな砂嵐

大きく 高く舞い上がる

高く 高く舞い上がる

やがて 砂は天の火も覆いつくす

目も覆いつくす

仲間も覆い ラクダも覆い

音はなく忍び寄る その砂嵐は恐ろしい

音もなく仲間を連れ去る その砂嵐は恐ろしい

音もなく友を埋める その砂嵐は恐ろしい

 

朗々と歌い上げる雪山には一筋の河が流れていた。河は幾筋のしわの谷を乗り越え、世界の果てへ流れ出る前に蒸発してしまった。老人は歌が一通り終わると、この歌の説明を始めた。

「ジュンガルの子らよ。これは、南のマラガ盆地の古い歌じゃ。その地で栄えた古の王国、ミーランはそのまた南の山々に住むパミール族との戦に明け暮れていた。多くのものは戦場に散ったが、砂漠で姿を消すものも少なくなかったのじゃ。彼らは砂嵐がくるとラクダに必死につかまり、ただ通り過ぎるのを待った。砂嵐が過ぎ去ったあと、隣に居た友がいなくなっていることも少なくなかったということじゃ。」

老人は悲しげな瞳を当てもなく彷徨わせたが、咳払いをして話しを元に戻した。

「諸君はまだこの世界の半分も見えていない。この草原でさえ、果てはあり、全く違う世界がその先には広がっているんだよ。草原が終わると、その先には…ただ水だけがある。」

老人の話を聞いて、鼻水をたらしたひとりの男の子がしたったらずな声をあげた。

「嘘だ!」

老人はにっこりと笑ったが、それにともなって谷が一層深く刻まれた。

「ジュンガルの子らよ。これから話す話を真実の目で見、聞きなさい。そして、心の奥深くへしまいこめ。嘘、と思う気持ちはそこから生まれても遅くはないよ。」

老人は息を深く吐くと、その鷲鼻で一気に大気を吸い込んだ。

馬の尾でできた弦を強く響かせながら、弓を巧みに操り、強弱をつける。

その音は広々とした空を思い起こさせるが、深い哀愁を誘い、その先に広がる異世界への期待感をかもし出す。少し耳を傾けたつもりでも、いつの間にかその楽器の前に立ち尽くしている自分がいるのだ。

―馬頭琴。

今はもうこの老人のみが持つ、人類最後の木製楽器である。

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コメント

 これから話がどうなって行くのか楽しみですね。民族ぽい味が出ていますね。ぼくのホームページ(カラドヴルフ)を見てくれてありがとうございます。あの書いたお話は最後のほうは自分でもなにかいたかよく覚えていないような作品だったのですが、本当に読んでくださってありがとうございます。

投稿: カームトーン | 2005年8月18日 (木) 22時28分

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