イリ河畔の会戦 ~夜明け~
肌を刺す空気の中、朝霧は深く、静かに漂っていた。
ダドドドドドドド……
遠くで馬蹄のような音が響いている。馬蹄よりももっと深く、大地を揺るがす音。
この分ならまだ遠いはず…戻って本部に伝えるべきか、ひとりの斥候は思った。
視界の広がる限り、白と緑しか映らないのだ。自分の行くべき道も、実はすでに見失っていることに斥候は気づいた。草の大地をがむしゃらにひと叩きすると、斥候は大の字に寝そべった。鉄でできた鎧のガチャガチャが耳障りだった。ふぅ、とため息をついて、斥候は何気なく馬を見た。馬がうまそうに草をほお張っているのが見える。ん?
鞍にかかる一筋の光。妹が託した水晶のお守りだった。斥候は、「…よっと。」起き上がった。
妹に会いたい。斥候は力いっぱい、お守りを握り締めると、
「神様…。」と、斥候はつぶやいた。握り締める拳から草の匂いがした、その時だった。
キラッ
斥候はわずかに光る空を見つけた。その光はいよいよ輝きを増し、一直線に斥候へ注がれた。するとどうだろう、お守りが一直線に光を放っているではないか。斥候は急いで馬の背にまたがった。そして、彼はカケタ。
走り去る馬蹄が響いたあと、深い朝霧の合間からひとりの男が現れた。全身ねずみ色に覆われた強靭な肉体に朝の新鮮な光があたる。数歩ほど歩くと、彼は腰の後ろにぶら下げたマチュテと呼ばれる幅広な刀を抜いた。数回足下の土をいじると、男はマチュテを鼻に近づけた。
「…ンドグゥ(…新しい)。」
お世辞にも清潔とは呼べない顔は満足気だった。マチュテについた土を拭うと、元あった場所に戻した。そして、まだ濃い朝霧の中に走り出していった。
なんとも、神様は意地悪だ。
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